マイクロソフト コーポレーション 2001年度 年次報告レター
20年前を振り返ってみましょう。当時MS-DOSで稼動していたIBM PCには小型のプロセッサ、少量のメモリ、そして僅かな容量の記憶装置しか搭載されていませんでしたが、販売価格は1595ドル、現在の貨幣価値では3000ドル以上でした。それでもこのPCは、技術の進展という意味では画期的なものでした。現在のPCは当時の何千倍ものパワーを持っていますが、価格は800ドル以下です。しかし、この20年間にこのような劇的な変化を遂げたのは、パワーと価格だけではありません。最も注目すべきは、このPCが職場、家庭さらには教育の場において欠くことのできない多様な機能を持ったツールとして成長を遂げてきた背景に、ソフトウェアの大きな進展があったということです。
ラジオやテレビ、ファックスなど、この100年間で実現された他の電子技術の成果は間違いなく画期的なものであったといえますが、それらはすべて単一の機能しか持っていません。一方、PCはソフトウェアによっていくつもの能力を持ったツールとなり得ます。ソフトウェアは、世界最大規模のビジネスを運用するためのパワーともなります。ソフトウェアを利用することで、家にいながらにして、自動車、書籍、音楽など必要なものは何でも購入することができます。シドニーに住む人とサンパウロに住む人が、即座にコミュニケーションを取ることが可能になり、ニューヨーク在住の中学生が、学校の宿題のため世界中の情報を求めてリサーチに出かけることも可能になりました。
さらに将来には、もっと大きな可能性が開けています。ソフトウェアが成長し、さらにダイナミックに、フレキシブルに、そして高速になるにつれ、PCはソフトウェアを中心につながるデバイスの中核となり、ビジネスや家庭において、人々はもっと持てる潜在能力を発揮し、 可能性を広げることが可能となります。
2001年度
2001年度(2000年7月~2001年6月)は、マイクロソフトの製品・サービスに対するカスタマーの評価が定着した年であったといえます。厳しい経済動向と不安定なテクノロジー業界の状況を考えれば、この成果にはより大きな意味があります。売上高は23億4000万米ドル増加して253億米ドルとなり、営業利益は7億1000万米ドル増加して117億2000万米ドルとなりました。
Windows 2000 Professionalの好調な売れ行きのおかげで、Windows製品群は好成績を収めました。Microsoft SQL Server 2000 およびExchange 2000 Serverの実績は素晴らしいものでした。この結果、マイクロソフトの成長株であるエンタープライズ向けサーバー ビジネスの売上は記録的なものとなりました。ビジネス アプリケーションとビジネス サービスの分野においては、マイクロソフトの統合ビジネス プラットフォームの最新版であるOffice XPのリリース、および中規模企業市場向けのビジネス アプリケーションの有力企業であったGreat Plains Software, Inc.の買収によって、我々の製品群が大幅に拡充されました。消費者向けサービス ビジネスの分野は、マイクロソフトにおいてはMSNグループが担当していますが、オンライン市場の厳しい状況にもかかわらず、20%という非常に高い伸びを示しました。
2002年度
2002年度(2001年7月~2002年6月)においても、マイクロソフトは次世代ソフトウェアおよびサービスの基盤となるMicrosoft .NET プラットフォームを中心に据え、以下の5つの分野を重点とすることで、確実な成長を遂げる見通しです:
- PCの能力や速度、柔軟性の向上に伴い、消費者とIT業界による「PCエクスペリエンス(XPerience)」の可能性を、さらに広げていきます。
- ビジネス分野においては、次世代の基幹業務用サーバーおよびビジネス アプリケーションを提供することで、大企業から中小規模企業にわたる企業ユーザー全般の要求に応えていきます。
- 消費者市場においては、MSNやさまざまなデバイス、ゲーム機器などの ビジネスを通じて、主要なマーケットに参加していきます。
- 次世代のXMLをベースとしたソフトウェアによるアプリケーション、ソリューションおよびエクスペリエンスを、全世界のデベロッパーと協力しながら開発していきます。
- インターネットや多様な携帯デバイスのためのサービスの提供における膨大なビジネス チャンスに投資していきます。
2002年度にリリースが予定されている製品には、Windows 95以来最も重要で新しいデスクトップOSとなるWindows XP、マイクロソフトの未来型ビデオゲーム システムであるXboxがあります。また、マイクロソフトのWindows .NET Serverオペレーティング システムおよび.NET Enterprise Serverアプリケーションの拡充と機能強化も行います。そして、新たなソリューション製品を構築することでカスタマーとのビジネス関係を強化し、パートナーとのシームレスな統合化を図り、従業員を活性化し、さらに新たなビジネス チャンスへの展開を図ります。ビジネス向けの重要な製品であるOffice XPも引き続き採用され、またGreat Plainsのビジネス アプリケーションも成長するものと思われます。開発者のコミュニティでは、Visual Studio .NETのリリースが非常に期待されています。Visual Studio .NETは、次世代のWebアプリケーションおよびXML Webサービスを構築して頂くために、マイクロソフトが提供するRAD(Rapid Application-Development)ツールです。MSNの提供するインターネット/ネットワーク サービスも、引き続き大きな成長をみせるものと予想されます。
Microsoft .NETおよびXML Web Services
上記の重点製品リリースに加え、マイクロソフトは、将来に向けた確固たる成長基盤を構築するため、2002年度におよそ50億米ドルの研究開発投資を行う予定です。研究開発の中心には、Microsoft .NETがあります。これは、コンピューティング技術の開発においてはGUI(Graphical User Interface)あるいはインターネットの登場にも匹敵する革新的なテクノロジーです。 .NET(ドット ネット)とは、XMLベースとなる次世代のWebサービスによって構築される新しいコンピューティング形態のために、マイクロソフトが新たに提供するプラットフォームの名称です。Webが、ユーザーによる情報アクセスの方法に変革をもたらしたのと同様に、XMLは、人々が容易に情報を共有、使用、変換できる標準データ フォーマットを提供することによって、アプリケーションによるデータ処理の方法や、コンピュータとデバイス間の通信方法に革命をもたらしていきます。.NETを通じて、さまざまなPCやサーバー、スマート デバイス、インターネット上のサービスが相互かつシームレスに協働する環境が整い、これによってマイクロソフトのみならず何千という開発者および業界パートナーに新たなビジネス チャンスが生まれてきます。ビジネス分野においても、処理の統合化、データ共有、組織間の連携が進むことによって、PC環境ならびに拡大しつつあるデバイスにおいて、現在では体験できないほどダイナミックでありながらも極めてパーソナルな、しかも生産性の高いエクスペリエンスがユーザーに提供されます。
1995年度におけるマイクロソフトにとってのビジネスと収益源は、デスクトップ製品、すなわちWindowsとOfficeを中心とするものでした。2002年度において、デスクトップ製品は引き続き我々の売上の大きな部分を占めますが、サーバーおよびエンタープライズ ビジネスの割合も急速に増大する見込みです。そして、MSN、Xboxなど新ビジネスも、引き続き我々の将来的な基盤の拡大に貢献するものと予想されます。今後5年間は、XMLによる次世代Webサービスを我々のすべてのビジネスに浸透させることが、成長維持のためのチャンスとなります。そして、この変革こそが我々の経営基盤を前進させるための鍵となります。
人材
本年、従業員数は50,000名を超える見込みです。これに伴い、創造的な業務環境の実現と強化に向け、次世代のビジネスリーダーの育成にはさらに力を入れ、経営活動およびその体制が適切に運用できるようにします。我が社の従業員の自然退職率は年間8パーセントであり、これはソフトウェアならびにITサービス業界全体の平均値の半分以下です。我々は、我が社の製品を絶え間なく改善することに専念している素晴らしい熱意を持った人々にとって魅力ある、生産性の高い業務環境を作り出すための新しい方法を引き続き模索していきます。さらに、個々の能力がチームワークとして結集するコラボレーション作業が報われるような環境を実現していきます。多様な人材を育成していくことは、マイクロソフトのみならず業界全体にとっても重要な課題です。
反トラスト法訴訟問題
ユーザーに利益と革新をもたらし、テクノロジー業界およびパートナーに新たなビジネス チャンスをもたらす 、というのが従来から一貫したマイクロソフトの方針です。今回の米国連邦高等裁判所の判決は、業界における革新の芽を摘む恐れのあった地裁判決の対象範囲を大幅に狭めるものでした。我々は訴訟における残りの争点を解決し、マイクロソフトおよび市場にとって納得のいく明快な結論を出し、消費者と業界双方の要求に応えられるようにするための努力を続けます。
業界におけるリーダーシップ
我々には、成功した一企業として業界全体におけるリーダーシップを発揮する責任があります。特に現在のような厳しい経済環境の中では、業界が協力し合い、過去の十年間において生産性の向上および成長の支えとなってきたテクノロジーの進展を積極的に推し進めていくことが重要です。.NET、XML Webサービスの開発およびオープンな業界標準の策定は、マイクロソフトが業界の発展のために大きな努力を払っていることを示す一例です。競争の激しさは、その業界が健全であることの証ですが、同時に我々は、パートナー、さらには競合会社との関係構築にも努力を続けていきます。
2年前、我々はマイクロソフトが創業以来培ってきた、そして我々の経営理念の根幹としてきた一連の価値観についてまとめてみました ( http://www.microsoft.com/mscorp/values.htm )。将来を見据えたとき、過去25年間のマイクロソフトの成功に非常に大きな役割を果たしてきたこの文化資産の意味は、さらに重要度を増してくるものと思われます。これらのうち最も基本的なものの一つが、「責任」に対する我々の一貫した姿勢です。絶え間なく製品の満足度を改善していくというユーザーに対する責任。安価なネットワーク型コンピューティングについてのビジョンを共有しているパートナー、中小企業、新規参入業者に対する責任。ソフトウェア開発者が次世代製品を開発する際に必要となるリソースの提供・サポートを行い、健全なビジネスの成長を促す、開発者のコミュニティに対する責任。そして、未来に向かって成長可能性がある分野に投資する一方で、現在のビジネスの充実も図るという株主に対する責任。これらが、我々が担う主要な「責任」です。
デジタル時代
過去20年の間に、PCは我々の仕事の方法、コミュニケーションの方法、さらには学習や遊びの方法にも変革を与えてきました。PCは、職場の生産性および協調性を高め、世界中の人々のコミュニケーション手段となり、学習や娯楽の分野においても強力で安価なツールとして成長してきました。
未来には、さらに大きなテクノロジーの進化が待っています。XML Webサービスによって、電子商取引、ビジネス プランニングおよびカスタマー サービスなどの分野には、新たな可能性が開かれます。文書管理、業務管理などはより簡便になり、しかも広範な機能が使えるようになります。次世代Tablet PCには、高度な音声認識や、手書き文字認識機能が装備されますので、ビジネス ユーザーの作業環境は一変します。安価で大容量のハードディスク、強力なオーディオとビデオの機能、使いやすいデジタルカメラによって、PCは家庭における娯楽と情報の中心となることでしょう。
現在、5億台以上のPCが世界中で使われています。2001年にはさらに1億3000万台が購入されると予想されています。この数は、同じ年のテレビの予想販売台数を越えています。携帯電話、テレビ、モバイル デバイスから電化製品までが、徐々にPCを中心とする高機能なネットワーク デバイスとして扱われるようになっていきます。この業界において、今まで経験したことのないようなエキサイティングな時代がやってきます。
これから到来するデジタル時代は、消費者にとっても、テクノロジー業界にとっても、膨大なチャンスがもたらされる時代です。マイクロソフトにとっては、優れたソフトウェアを、いつでも、どこでも、どのデバイス上でも利用できるようにすることで人々に貢献していくというビジョンを実現するための、またとないチャンスとなるでしょう。

ビル ゲイツ(Bill Gates)
会長 兼 チーフソフトウェア アーキテクト |

スティーブ .バルマー(Steve Ballmer)
最高経営責任者(CEO) |
|